2015アートセミナー報告
   

 
   
 元神戸女学院中高部教諭で、園田学園女子大学名誉教授の吉村 稠氏を講師にお迎えし、「作家水上勉へ、二つの視座からの考察」と題して二回にわたりお話を伺いました。両日とも多くの方にお越しいただき、めぐみ会員のみならず、一般の方々にも熱心に聴講いただきました。
 
 
第1回 2015年9月2日(水)

    <子>水上勉の視座から
        ー 「雁の寺」誕生と母との別れ ー

  はじめに先生は、水上勉の「失われゆくものの記」のなかで彼が伏見の土人形について書いた一文を引用され、平然と思ったとおりに文章を書く作家水上勉を印象付けられました。そして、水上勉という作家の抱えた主題と原点とは何か。彼がこだわる出自の問題、9歳にして母と別れるという消し難い心情の原点を、主人公慈念と桐原里子という二人の描出によって具象化された「雁の寺」(直木賞受賞)の世界から、さらに水上文芸における人間存在の哀れさを、車谷長吉の追悼文を通して語られました


第2回 2015年9月9日(水)
 
    <父>水上勉の視座から
        ー 窪島誠一郎「父への手紙」「父 水上勉」 ー

   探し当てた父は水上勉であったという、朝日新聞の記事。そこには、30余年ぶりに生き別れた息子と再会した父、水上勉の姿と、長い年月を経て辿り着いた結末を信じられないと喜ぶ息子、窪島誠一郎の姿。
 先生は再会までの紆余曲折を、息子の著した二冊の書物を通じて紹介され、そこに描き出された毀誉褒貶を顧みず、平然とこの再会を受け入れた水上勉の作家としての強さを語られました。