2014アートセミナー報告

大阪大学文学研究科准教授、神戸女学院大学文学部非常勤講師の岡田裕成先を、講師にお迎えし、「スペインの世界文化遺産を歩く」と題し、2回にわたり講演していただきました。
第1回 11月10日(月)13:00〜14:30
サンティアゴ巡礼の道:世界文化遺産に登録された巡礼路のロマネスク聖堂

エルサレム、ローマと並ぶキリスト教の3大巡礼地のひとつであるサンティアゴ・デ・コンポステーラ、そこで、9世紀初めに聖ヤコブ(スペイン語でサンティアゴ)の聖遺物が発見された。それは、8世紀初頭以来のイスラム教徒の制圧からのレコンキスタ(国土再征服運動)と相まって、イベリア半島を救ってくれる何かを求めていた、キリスト教徒の信仰として大きな意味のある巡礼路となった。その隆盛が中世ヨーロッパの文化交流を促し、長い巡礼路に沿って、多くの聖堂が整備された。
ヌヴェール、サンテティエンヌ聖堂、コンク、サント・フォア聖堂、サント・ドミンゴデ・シロス修道院回廊、オータン、サン・ラザール大聖堂など、ロマネスク期の建築の特徴を学び、門や扉、柱の彫刻や装飾、壁画を、紹介していただきました。
ロマネスク彫刻の、人物がみんな同じであったり、平面的に後ろにいる人を上に重ねていく、枠に合わせるという「枠の原理」であったり、デフォルメ、単純化という、ある意味不自然な描写が、現実を超えた抽象的なものとなる。また、重要なもの、聖なるものを大きく表すことは、中世の人々にとっては、明確な原理、ある種の価値観を示すものとなる。そこにロマネスクの美学がある。また、聖堂内の壁画も、よくわかるようにはっきりと描かれている。暗い聖堂内では、単純化されたものが、鮮やかに見える。建物や巡礼者を抜きに、これらの美術は考えられない。ちょっと違った見方をしてみる必要がある。
岡田先生のサンディアゴでの体験談もお話しいただき、楽しく、また非常に意義深いセミナーでした。

第2回 12月1日(月)13:00〜14:30
バルセロナ散策:アントニ・ガウディの建築を歩く

都市バルセロナは、19世紀に入り、産業革命の進行で増大した人口に対応し、エンサンチェ地区では、133.4mのグリッドを基本とする新市街が建設され、大規模な道路工事が行われた。19世紀末から20世紀初め、近代化の進むヨーロッパ各地の都市で流行した、主に建築・デザインにおける新たな趣味・モデルニスモがうまれる。鉄材やガラスなどの近代的素材を用い、曲線や有機的なフォルムを多用した斬新な装飾を生み出した。バルセロナにおいてもヨーロッパ各地の近代都市文化の隆盛と軌を一にするが、「歴史主義」的な傾向も帯び、スペイン独特のムデハル(残留したものという意)という様式を、リバイバルさせる。レンガやタイルを使用したスペインらしいモデルニスモである。
バルセロナのモデルニスモを代表する建築家であるアントニ・ガウディは、富豪エウセビ・グエイの後援を受け、サクラダ・ファミリア教会の専任建築家に指名され、ビセンス邸、グエル邸、カサ・ミラ、カサ・パリョ、グエル公園などを建築。至るところにエキゾチックなモチーフが加えられ、同時期に教会も設計した。ゴシック建築に明り採りの窓といったイスラム風エキゾティシズムが、そこここに使われている。ガウディの作品の、近代主義に対する独自性ともいえる成型されたタイルでなく、崩したタイルを用いるとか、左右対称ではない自由な空間作り、歴史的ゴシック形式に自然らしさをを取りいれる自然との共生など作品を通して様々な特徴を示していただいた。
現在も、古いものを大切に守りながらの街づくりをしているバルセロナの様子を見て、日本もそうでありたいと思いました。