アートセミナー2026報告
2026アートセミナー
第一回 『ハプスブルク・スペインの皇帝カルロスの結婚式-ルネサンス・タピスリーに飾られた祝祭』
ブルゴーニュ公カルロス(1500-1558年)は、20歳になるまでにスペイン王と神聖ローマ帝国の皇帝となり、またたく間に広大な領地を支配しました。当時は征服した地方に権威を示すべく、一か所に留まらずに常に移動する「移動宮廷」で政治を行っていました。今回はこの「移動宮廷」において美術がどのようにプロパガンダとして使われていたのかを、1526年の皇帝カルロスのセビリアでの結婚式から考察しました。
結婚式当日、皇帝はまずセビリアの町に華やかな装飾を施し、音楽の演奏など非日常空間を演出し、7つの「凱旋門」を設置し順番に通過するという「入市式」を行いました。次に「大聖堂」に到着し、良きキリスト教徒であることを示します。この時イスラム時代の門を通ることで異教徒を征服した存在であることもアピールしました。
そして結婚式を挙げた王宮はかつてイスラム建築に憧れたペドロ1世が建てたものでした。皇帝は異教徒の文化遺産を引き受けるキリスト教徒としてここで結婚式を挙げたのです。
さて「移動宮廷」を飾る媒体として最も重宝されたのは容易に持ち運びができるタピスリーでした。タピスリーは14~16世紀にブルゴーニュで黄金期を迎えます。9点の連作からなる通称「名誉のタピスリー」は結婚式で披露されたようです。この極めて豪華なタピスリーは皇帝カルロスの故郷ブルゴーニュ宮での洗練された文化を引き継ぐ象徴として用いられたと思われ、ここに当時のハプスブルク・スペインの栄華を見ることができます。

第二回 『ルーベンスが描いたブルボン家王妃マリーの生涯-ルーブル美術館の名品を読む』
今回は16~17世紀のヨーロッパにおいて、絶対王政の確立とともに「移動宮廷」から「定住宮廷」へと移行した背景と、それに伴う宮廷美術の変容を解説していただきました。移動を前提としたタピスリーなどの一時的な装飾から、特定の固定された空間のためにカスタマイズされる「絵画プログラム(一連の絵画群による空間装飾)」へと変化したことが大きな流れです。
その典型例としてバロック期の巨匠ペーテル・パウル・ルーベンスが1620年代にパリのリュクセンブール宮殿のために制作したフランス王妃マリー・ド・メディシスの生涯をたたえる絵画シリーズに焦点を当てました。
ルーベンスはカラヴァッジョの明暗法、ミケランジェロの肉体表現、ティツィアーノの色彩などを融合し、対角線構図を用いたダイナミックで華やかな画風を確立しました。
彼の絵画的仕掛けの特徴は、王権への徹底的な賛美(忖度)の演出にあります。代表作「王妃のマルセイユ上陸」では王妃の港への到着という出来事を神話の海の神々や都市の擬人像を総動員して描かれています。また王妃の生涯を誕生から教育、お見合いなど王妃の生涯を描いた一連の絵画シリーズでは神話やキリスト降臨、聖母の図像になぞらえて描き、最高潮となる「アンリ4世の死と摂政就任」では王の暗殺という悲劇を「時の翁」による昇天へと描き変え、マリーの正当な権力継承と勝利を賛美しました。
当時の特権階級の共通教養を前提に、メッセージを感覚的に読み解かせる高度な宮廷美術の仕組みが、ルーベンスの卓越した表現力とともに示されています。

