第4回は現代の教科書でも必ず取り上げられる 巻五「若紫」でした。
おこり病のまじないに北山の高僧を訪れた18歳の源氏の君は、山桜が咲きほこり霞かかる 山深い草庵で、10歳くらいの美少女「若紫」の姿を垣間見ます。この少女は、源氏が恋い慕う 藤壺の女御に似ているのですが、それもその筈、藤壺と少女は、叔母と姪の間柄でした。
運命に導かれた二人の出会いのこの場面は、『源氏物語』という壮大な物語の入り口とも いえるとのこと。最後に皆で朗読し『源氏物語』の世界を楽しみました。
(今回のアートセミナーも錦田先生のご丁寧なご講義で、『源氏物語』を原文で堪能することができました。)
巻四「夕顔」では、17歳となった光源氏が、ようやく御所の外の世界を知り、初めて庶民の暮らしにふれる様子が細かく描かれています。
光源氏は乳母を五条に見舞った際、隣家の簾越しに垣間見た愛くるしい女性に、自分の素性を明かさずに歌を贈ります。この女性、夕顔は中流階級らしいおおらかでおっとりとした性格で、宮中の高貴な女性にはない素直な可愛いらしさがありました。すぐに恋に落ちた源氏は、夕顔を寂れた某院に連れ出しますが、その夜、枕元に現れた怪しげな女(もののけ)によって、夕顔は死に追いやられてしまいます。
このあと、源氏は幾多の女性と浮名を流すこととなりますが、切なく悲しい結末となった若き日の夕顔との恋は、一瞬ゆえに、光源氏にとって、永遠の思い出となります。
「夕顔」の巻には、「白き花」「白き衿」など白色の表現が散りばめられており、それがいっそう清楚ではかない夕顔のイメージを作り上げています。
(今回のアートセミナーも錦田先生のご丁寧なご講義で、『源氏物語』を原文で堪能することができました。)
第一回は、14世紀初頭、イタリアのパドヴァに建設された礼拝堂の内部に、ジョットが描いたフレスコ画が題材でした。父親の代から銀行業を営む富豪、エンリコ・スクロヴェーニが出資者です。当時のカトリック教会では高利貸しは大罪とされていた中、自身と一族の贖罪を願ってこの礼拝堂を建設したそうです。
聖書の数々の物語で構成される壁画の中から、特に「ラザロの復活」の場面を詳しく解説いただきました。立体感や臨場感豊かなジョットの絵画は、ルネサンス美術の先駆けともいえるそうです。
新しい造形表現を探求する芸術家と、イタリアの都市部に登場しはじめた富裕な市民との出会いによって作り上げられたのが、この礼拝堂とのことでした。
3年ぶりの対面での開催となった岡田先生のアートセミナーには、雨天にも関わらず定員近い受講者が集いました。カラー写真をふんだんに見せていただきながらのご講義に「実物を見たくなりました」「次回の申し込みもして帰ります」などのお声も聞こえました。
第2回は、ルネサンスの巨匠の一人、ラファエッロがヴァティカーノ(バチカン)宮殿の「署名の間」に描いたフレスコ画を取り上げて、ご講義いただきました。16世紀の初頭に教皇ユリウス2世が制作を委託した、教皇の居室群のひとつです。
プラトンとアリストテレスが中央に描かれた「アテナイの学堂」が特に有名なこの部屋には、4方の壁と天井の5面を使って「哲学」「神学」「法学」「詩学」の4つをテーマに、壮大な物語絵が描かれています。
同じ時期にミケランジェロが天井画を描いたシスティーナ礼拝堂には、「最後の審判」に代表される当時のキリスト教の世界観が描かれているのに対し、この「署名の間」は、歴史上の人物や古代の神々など、多くの異教徒の姿が描かれています。ルネサンスの思想、とりわけ新プラトン主義が目指した〈古代哲学とキリスト教神学の調和〉が、教皇の執務のよりどころとして描かれているとのご説明でした。

「源氏物語」は登場人物400人、原稿用紙にすると2300枚にも及ぶ大長編で、しかも文章は複雑です。文の途中で主語が変わることもあります。このため、錦田先生のご指導のもと、文中の会話に「」を付けたり、マーカーで重要な古語をチェックしたり、また敬語や文法に注意を払いながらじっくりと理解を深めて読み込みました。最後は全員で音読し、原文で源氏物語の世界を楽しむことができました。
第一回、巻一「桐壺」では、スタートにふさわしく、「光源氏の誕生」というテーマでご講義いただきました。
帝の寵愛を受けた桐壺更衣のこと、宮中での複雑な人間模様、その間に生まれた美しい皇子があえて臣籍降下して源氏の姓を賜る経緯などについて学びました。
第二回のテーマは "「桐壺」と 白居易 「長恨歌」" です。
桐壺の更衣を失くした桐壺帝の悲しみを記した場面では、白居易の「長恨歌」の中の「比翼の鳥」、「連理の枝」などを紫式部が模して書いたと思われる表現がいくつか見あたります。
これらから、当時、「源氏物語」の読者であった宮廷メンバーは必ず中唐の詩人 白居易の「長恨歌」を読み、教養として知っていたこと、また、紫式部自身、「長恨歌」のテーマ"純愛"から着想を得て、二重三重にイメージを膨らませたということが伺えます。
先生のご指導のもと、「長恨歌」を朗読してから「桐壺」を読みますと、まさしく、桐壺帝が、この玄宗皇帝と楊貴妃の悲恋物語とご自分の悲恋を重ねあわせて、桐壺の死をお嘆きになっていることが、より理解できました。
今回も「『源氏物語』は原文を読んでこそ楽しめるのですよ。」という錦田先生のお言葉どおりのご講義でした。
古典倶楽部
~高校の教科書を読み直す~(全6回)
源氏物語の名場面
各回 13:30~15:00
元神戸女学院中高部非常勤講師
錦田 靖子氏
もう一度古典文学に親しんでみませんか?
1回だけのご参加でも結構です。
お気軽にお申込みください。
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第1回 5月27日(金) 巻一「桐壺」
第2回 6月24日(金) 「桐壺」と白居易「長恨歌」
第3回 11月4日(金) 巻四「夕顔」
第4回 12月2日(金) 巻五「若紫」
第5回、第6回は2023年度前期開催予定
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神戸女学院
めぐみ会館
受講料
各回 1,000円
学生無料
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お問い合わせ・お申し込みはめぐみ会事務局まで
こちら
2021アートセミナー報告
古典俱楽部 ~テーマに沿って高校の教科書を読み直す~
前期「生きているものたち~動物~」
今年度は、緊急事態宣言のため、残念ながら前期第1回は中止となりました。
第2回 6月25日 犬 『徒然草』・『枕草子』
今では私たちの身近な存在である猫と犬。古典の世界では、猫は、上流階級が珍重する愛玩動物として描かれているのに対して、犬は、より古くから番犬として人々の身近な存在だったそうです。犬派にも猫派にも興味深いセミナーでした。
第3回 7月16日 猫 『更級日記』・『源氏物語』
亡くなった人の生まれ変わりや、帝の寵愛の対象、あるいは不義の恋愛の小道具として猫が登場する場面を読みました。『枕草子』からは、清少納言が苦手なもののひとつとして「猫の耳の中」を挙げている段も紹介いただきました。
後期 三つの物語
第4回 10月1日 「伊勢物語」
日本最古の歌物語で、在原業平がモデルではないかと言われる「男」の一代記。千年以上前の作品にもかかわらず、人々の感情に共感できました。また、鬼が登場する不可思議な物語は、政権争いに関連する事件が下敷にあると教わり、興味深く感じました。
第5回 11月5日 「大和物語」
10世紀中ごろから末にまとめられた歌物語から、今回は、三つの物語を読みました。「姨捨」では、山に捨てに行った老女を、どうしても心が晴れないため、また迎えに行きます。その他、身分違いの男女の物語も読み、人としての情や哀感を感じました。
第6回 12月3日 「平家物語」
今回は、「祇園精舎の鐘の声」で始まる有名な冒頭部分を、まずは出席者全員で音読。和漢混交文の、力強く美しい響きを楽しみました。「木曽の最期」と「忠度の都落ち」に描かれた武士たちの最期の様子に、鎌倉時代の価値観に思いを馳せました。
2021アートセミナー「ルネサンス美術の二都を歩く」は
今回はコロナ禍ということで、動画配信のみでの開催となりました。
第一回「ヴェネツィアの教会に静謐の画家G.ベッリーニの名品をたずねる」
先生の実際にヴェネツィアで撮影されたお写真も交えた旅のお話から
はじまり、ジョヴァンニ・ベッリーニの一族、そして、ジョルジョーネへと
引き継がれるルネサンス美術、ヴェネツィア派の流れを解説いただきました。
ジョヴァンニ・ベッリーニ作、「ペーザロの祭壇画」は、豪華な装飾のフレームに
囲まれた絵画で、その絵の中には、さらに同じようなフレームが描かれ、
フレームの中には、奥行きのある森や丘の風景。その前には、聖母に冠を与える
キリストとその弟子たち。まさに空間のトリック。
ご講義の終盤には、ジョルジョーネ作、「嵐」が写し出されます。
先生が2時間、この絵の前で佇み、思いを巡らされたという作品です。
森の中で授乳する女性、騎士、森の奥の空には真っ黒な雲と雷鳴。
エメラルドグリーンの不思議な世界が広がります。
答がないのが答。自由に想像を広げて。
先生の絵画を鑑賞する喜びがこちらにも伝わってくるご講義でした。
第二回「フィレンツェ メディチ・リカルディ宮殿の壁画装飾」
メディチ家の礼拝堂の壁画を中心にしたご講義でした。
莫大な資産を築いたコジモ・デ・メディチは人生最後に自身の救済を求めて
壮大な一枚の壁画を発注。
マギとよばれる3人の賢者がキリストの生誕を祝うためにベツレヘムへと
旅する物語です。行列の中にメディチ自身や、作者ベネッツォ・ゴッツォリの姿も。
礼拝堂の中で、聖地巡礼と毎日の祈りを完結できる仕掛けとなっています。
ステイホームの中、皆さまにイタリアの風を感じていただけたことと思います。
アンケートでは、動画配信という新しい試みに、ご好評のメッセージを多数いただいております。画像も音声もクリアだったとのこと。
平日お仕事の方、ご遠方の方(東京、長野、シンガポールなど)にもご参加いただくことができました。
今年度は、講師と受講生との対話が容易な教室形式を企画しましたが、前期は中止、後期は感染予防のため、従来通りの大きい集会室で開催となりました。
後期は3回に渡って日本の三大随筆を学びました。『枕草子』では、清少納言の鋭い観察力と軽妙な語り口で平安中期の様子を楽しみました。「○○〇のもの」シリーズでは、現代にも通じる感覚に共感を覚えました。『方丈記』では、平安末期に起こった大火、竜巻、飢饉、大地震などの様子に、人間の無力さと、現在のコロナ禍を想いました。『方丈記』はジャーナリストの視点で正確な数値も記述した日本最古の書物だという点が興味深かったです。『徒然草』では、鎌倉末期から南北朝時代の様子と兼好法師の論理的で冷静な所感を楽しみました。古文を楽しむために不可欠な文法についても、毎回分かりやすく解説してくださいました。
コロナ禍にも関わらず、赤ちゃん連れや学生さん、リピーターの方と、たくさんの方にお越しいただきました。古典をこれからも学びたい、というお声もたくさんいただきました。来年度も企画してまいりますのでどうぞよろしくお願いいたします。
~受講者からのお声~
・コロナなのによく催して下さりました。
・面白かったです。他の部分も読んでみたいと思います。
・時代は異なっても、感じ方や思うところは似ていることもある。
・久しぶりに学校の授業を思い出させていただきました。
・先生のお声がとてもステキで聞きやすかったです。
・だんだん古文が好きになりました。
・自分でもゆっくり読み直したいです。
・来年も是非参加したいです。
第1回 光を纏うモザイク壁画:イタリア、中世ラヴェンナの聖堂群を歩く
中世・6世紀半ば、ビザンティン帝国時代に迎えた、キリスト教美術の隆盛と特徴について、ラヴェンナに残るモザイク壁画の数々を通して堪能しました。
第2回 ルネサンス前夜のフレスコ壁画:フィレンツェ、サンタ・マリア・ノヴェッラ聖堂を訪ねて
中世末・14世紀ルネサンス直前のフレスコ壁画について、フィレンツェの代表的なフレスコ壁画を鑑賞しながら、下から上へ読み解く方法、宗教的メッセージについて学びました。
いつもとても分かりやすい解説で大人気の岡田裕成氏のセミナーですが、今年度も大勢の方にご来場いただきました。ありがとうございました。
昨年度に引き続き、神戸女学院中高部非常勤講師の錦田靖子先生をお招きし、「古典倶楽部~テーマに沿って高校の教科書を読み直す~」と題し、ご講義いただきました。
今年度は「受領の女たち」をテーマに、「受領階級とは」から始まり、決して地位としては高くない地方官を親に持ちながらも、その特別な立場ゆえに女性ながら教養を与えられ、流行に敏感になった受領階級の子女たちによって書かれた作品の読み方を学びました。受講者は、錦田先生のエネルギッシュな語りと古典への造詣の深さに引き込まれ、作品の中に散りばめられた人間模様を大いに楽しみました。学生時代とは一味違う古典の楽しみ方を教えていただきました。