アートセミナー

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2025 アートセミナー「名作に秘められた意味を読み解く」報告
講師 大阪大学大学院人文学研究科教授
神戸女学院大学文学部非常勤講師
岡田 裕成氏

2025年6月23日
《第1回》ルネサンスの「愛のアレゴリー」:
フィレンツェの画家ブロンズィーノの名作を読む

 今回はマニエリスムの代表的な画家、ブロンズィーノの作品『愛のアレゴリー』
をじっくりと読み解きました。マニエリスムとは盛期ルネサンスに既に確立した
様式・手法(「マニエラ」)をさまざまに組み合わせて、さらに洗練された表現を
目指した芸術様式です。
 まずこの絵の正面手前の女性と少年は誰でしょうか?少年には翼があるのでクピド、
女性は母親のウェヌスで、二人は禁じられた快楽の世界にいるものと思われます。
次に背後の暗がりに描かれた女性は何なのか?よく見ると彼女は半身半獣で、手には
蜂の巣とサソリを持っています。1603年に出版された「エンブレム・ブック」の
『イコノロジア』ではこの図像は「甘いものに見えて実は毒」、つまり「欺瞞」を
意味するとしています。
 「裸のウェヌスと彼女に接吻しているクピドの側には快楽と戯れが、またもう一方
の側には欺瞞と嫉妬が描かれている」とはヴァザーリの解釈ですが、これが正解とは
限らず他の解釈の余地を残すところにマニエリスムの面白さがあります。マニエリスム
の美術は各地の宮廷で広まり、奇想に富み、時に複雑な寓意を含んだ作品を数多く生み
だしました。

2025 アートセミナー「名作に秘められた意味を読み解く」報告
講師 大阪大学大学院人文学研究科教授
神戸女学院大学文学部非常勤講師
岡田 裕成氏

2025年7月14日
《第2回》知られざるアルハンブラ宮殿:
イスラムの美に接続された古代ローマへの夢を読む

今回は建築様式に込められた潜在的な意味を読み解くというテーマで、建築
モニュメントや景観に焦点を当てて講演していただきました。
具体例として、ホワイトハウスが古代ギリシャの神殿建築を模倣していること
を挙げました。これは単なる美しさだけでなく、「ヨーロッパ文明の源流」
「民主主義の発祥の地」「強大なローマ帝国の建築様式」といった意味が込め
られており、アメリカという新しい国の権威を示す意図があり、さらにワシン
トンDCの都市景観全体が、このようなメッセージを読み取れるように設計され
ているといえます。
そして今回の主役であるアルハンブラ宮殿が、なぜキリスト教徒に征服された
イスラム建築なのに破壊されずに残ったのかを考察しました。
建築様式の美しさだけでなく、征服した側の政治的意図、特に新旧の権威の交代
と継承を可視化するシンボルとしての意味があったことを示唆します。
カルロス1世がアルハンブラ宮殿内に建設させた古典主義様式の宮殿は、その昔
ローマ帝国時代の五大賢帝の一人であるハドリアヌス皇帝の別邸を模したと言わ
れています。イスラム建築の正面を塞ぐように配置された建物は、その権力と征
服の事実を明確に示しています。
カルロス1世が自らをハドリアヌス皇帝になぞらえ、さらに全世界を一つにする
普遍の君主国建設のヴィジョンをモニュメントに刻みこんだアルハンブラ宮殿は、
まさに権力者たちの古代ローマへのあこがれと夢が刻まれているというとても興
味深い講演でした。
受講者の方から、「とても興味深かった、ぜひアルハンブラ宮殿へ行ってみたく
なった」、または「今日の講演を聞いてもう一度行きたくなった」との声も多く
いただきました。

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