2025 アートセミナー「名作に秘められた意味を読み解く」報告
講師 大阪大学大学院人文学研究科教授
神戸女学院大学文学部非常勤講師
岡田 裕成氏
2025年6月23日
《第1回》ルネサンスの「愛のアレゴリー」:
フィレンツェの画家ブロンズィーノの名作を読む
今回はマニエリスムの代表的な画家、ブロンズィーノの作品『愛のアレゴリー』
をじっくりと読み解きました。マニエリスムとは盛期ルネサンスに既に確立した
様式・手法(「マニエラ」)をさまざまに組み合わせて、さらに洗練された表現を
目指した芸術様式です。
まずこの絵の正面手前の女性と少年は誰でしょうか?少年には翼があるのでクピド、
女性は母親のウェヌスで、二人は禁じられた快楽の世界にいるものと思われます。
次に背後の暗がりに描かれた女性は何なのか?よく見ると彼女は半身半獣で、手には
蜂の巣とサソリを持っています。1603年に出版された「エンブレム・ブック」の
『イコノロジア』ではこの図像は「甘いものに見えて実は毒」、つまり「欺瞞」を
意味するとしています。
「裸のウェヌスと彼女に接吻しているクピドの側には快楽と戯れが、またもう一方
の側には欺瞞と嫉妬が描かれている」とはヴァザーリの解釈ですが、これが正解とは
限らず他の解釈の余地を残すところにマニエリスムの面白さがあります。マニエリスム
の美術は各地の宮廷で広まり、奇想に富み、時に複雑な寓意を含んだ作品を数多く生み
だしました。




