2022アートセミナー 岡田氏報告

 第一回は、14世紀初頭、イタリアのパドヴァに建設された礼拝堂の内部に、ジョットが描いたフレスコ画が題材でした。父親の代から銀行業を営む富豪、エンリコ・スクロヴェーニが出資者です。当時のカトリック教会では高利貸しは大罪とされていた中、自身と一族の贖罪を願ってこの礼拝堂を建設したそうです。
 聖書の数々の物語で構成される壁画の中から、特に「ラザロの復活」の場面を詳しく解説いただきました。立体感や臨場感豊かなジョットの絵画は、ルネサンス美術の先駆けともいえるそうです。
 新しい造形表現を探求する芸術家と、イタリアの都市部に登場しはじめた富裕な市民との出会いによって作り上げられたのが、この礼拝堂とのことでした。

 3年ぶりの対面での開催となった岡田先生のアートセミナーには、雨天にも関わらず定員近い受講者が集いました。カラー写真をふんだんに見せていただきながらのご講義に「実物を見たくなりました」「次回の申し込みもして帰ります」などのお声も聞こえました。

 第2回は、ルネサンスの巨匠の一人、ラファエッロがヴァティカーノ(バチカン)宮殿の「署名の間」に描いたフレスコ画を取り上げて、ご講義いただきました。16世紀の初頭に教皇ユリウス2世が制作を委託した、教皇の居室群のひとつです。
 プラトンとアリストテレスが中央に描かれた「アテナイの学堂」が特に有名なこの部屋には、4方の壁と天井の5面を使って「哲学」「神学」「法学」「詩学」の4つをテーマに、壮大な物語絵が描かれています。
 同じ時期にミケランジェロが天井画を描いたシスティーナ礼拝堂には、「最後の審判」に代表される当時のキリスト教の世界観が描かれているのに対し、この「署名の間」は、歴史上の人物や古代の神々など、多くの異教徒の姿が描かれています。ルネサンスの思想、とりわけ新プラトン主義が目指した〈古代哲学とキリスト教神学の調和〉が、教皇の執務のよりどころとして描かれているとのご説明でした。