2022 アートセミナー報告(錦田氏)

 巻四「夕顔」では、17歳となった光源氏が、ようやく御所の外の世界を知り、初めて庶民の暮らしにふれる様子が細かく描かれています。

 光源氏は乳母を五条に見舞った際、隣家の簾越しに垣間見た愛くるしい女性に、自分の素性を明かさずに歌を贈ります。この女性、夕顔は中流階級らしいおおらかでおっとりとした性格で、宮中の高貴な女性にはない素直な可愛いらしさがありました。すぐに恋に落ちた源氏は、夕顔を寂れた某院に連れ出しますが、その夜、枕元に現れた怪しげな女(もののけ)によって、夕顔は死に追いやられてしまいます。

 このあと、源氏は幾多の女性と浮名を流すこととなりますが、切なく悲しい結末となった若き日の夕顔との恋は、一瞬ゆえに、光源氏にとって、永遠の思い出となります。

 「夕顔」の巻には、「白き花」「白き衿」など白色の表現が散りばめられており、それがいっそう清楚ではかない夕顔のイメージを作り上げています。

(今回のアートセミナーも錦田先生のご丁寧なご講義で、『源氏物語』を原文で堪能することができました。)